リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

近代化した中国軍は、防衛から攻撃へ

中国軍が10年ぶりに軍事パレードを実施


10月1日、人民解放軍(中国軍)は北京で軍事パレードを行いました。建国60年目のパレードです。

1日午前11時半、中国・北京の天安門広場に、建国60周年を祝う声が響いた。 胡錦涛国家主席は「国家の主権と安全、領土保全と世界の平和を維持させるため、(軍と警察は)新たな功績を獲得しましょう」と述べた。

建国から60年、中国軍はまったく様変わりしました。

1949年に北京へ入城した中国人民解放軍は満身創痍で、ボロ切れをまとっているような状態だったが、現在はまさに見違えるばかりの変化を遂げていると、フランス通信社(AFP)が報じた。…新型戦闘機「J-10」のほか、後方支援システム、通信システムなどハイテク化された装備が明らかになるとされており、戦略システムの転換達成がアピールされることが予想されている。

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中国の1日の軍事パレードは、中国人民解放軍が遅れていた装備を近代化させ、軍事技術と機動性を着実に向上させたことを裏付けた。米国の大半を射程に収める新型の大陸間弾道ミサイルICBM)「東風31A」などの初公開は長距離の攻撃能力の高まりを示す。

日本経済新聞

今回のパレードでは際立った新兵器のお披露目はなされず、以前から導入されたものが中心でした。とはいえ中国軍が20年ばかり、ぐんぐんと近代化していることは確かです。これは何を意味するのでしょう。単に新しくなった、強くなった、というだけではありません。

本土防衛から遠方攻撃へ

中国国土を離れた遠方を攻撃する能力*1が増している、というのです。

さらに注目されるのは…数種類の戦闘車両。 軍事アナリストの斎木伸生氏は「これは中国国産の水陸両用戦車です。あと歩兵を運ぶ、やはり国産の水陸両用戦闘車両というのもあります。…上陸作戦に使うための車両だということが言えます」と話した。

斎木氏によれば10年前、国内で使う陸軍の戦車が主体だったパレードに比べ、今回は上陸用の水陸両用戦車や輸送機から投下できる戦闘車など、攻撃的ともいえる機動力を積極的に見せているという。

中国軍はかつて遊撃(ゲリラ)戦理論に従った人海戦術を得意としていました。これはどちらかといえば、本土防衛に向いた戦法です。かつての日本軍のように中国に攻め込んできた敵軍をゲリラ戦法で苦しめ、ついに撃退するために考えられました。ところがこの毛沢東式戦法は、中国軍が海外を攻めるにはあまり向いていません。

そこで最近の中国軍は毛沢東式を離れ、近代的なロシア式を学びつつあります。ロシアの戦い方は、冷戦時代にヨーロッパを征服するために考えられたものです。サッカーでいえばオランダ、ドラクエでいえば「ガンガンいこうぜ」。要するに敵地に侵攻して勝つのが得意なやり方です。

つまりは兵器(ハードウェア)だけでなく、それを活用する戦法(ソフトウェア)も近代化しつつある。それが今の中国軍です。そしてそれは本土防衛というより、敵地攻撃を志向しています。

海空軍も海外展開を重視

陸軍だけではありません。陸と共同すべき、中国の海空軍も、遠方で戦えるように近代化しつつあります。

中国海軍は外洋へ向かう

海軍は空母を建造に向かっています。

中国は今年から初の国産空母の建造を本格化させるようだ。…空母建造の狙いは、対台湾ではなく、「戦わずして相手を屈服させられる」(海軍軍事学術研究所の李傑研究員)など国際社会での軍事的プレゼンスを高める効果にあるようだ。

ページが見つかりません - MSN産経ニュース

空母の利点は、本土の遠くはなれた遠方の海洋でも戦闘機を飛ばせることです。それによって本土の基地から戦闘機を飛ばしたのでは届かない地域でも、味方の軍隊を活動させられるようになります。これによって遠くの国を「戦わずして屈服させられる」ような圧力を得られます。

中国空軍は防空型から攻撃力を強化

空軍も同様です。

中国の梁光烈国防相は21日、…空軍について「防空型から攻撃と防御を兼備した空軍への転換を図る」と攻撃力も高めていく考えを示した。

…海軍は近海防御型から遠洋での作戦能力を高めるなどし、21世紀半ばには軍全体の近代化を完了させると指摘した。(中国)

ページが見つかりません - MSN産経ニュース

空軍についても、ハードとソフトの両面でさらなる近代化を進め、本土防空だけでなく遠方攻撃能力を高めていく、というのです。海軍が外洋にでるにはその上を空軍に守ってもらわねばなりません。陸軍が外国に上陸するには、その前に空軍が敵空軍を攻撃し、上陸を邪魔できないよう排除せねばいけません。いずれにせよ空軍が攻撃力を高めるのは、遠方への攻撃(戦力投射)のために大事なことです。

全軍をあげて近代化、遠方攻撃にシフト

このように陸海空すべてで近代化が行われ、かつ遠方攻撃力の獲得にシフトしています。この近代化はさらに進みます。陸軍のムダな兵力を減らし、海空軍を増員するようです。

中国人民解放軍は、軍の近代化の一環として、2─3年で陸軍兵力の70万人削減、海軍および空軍の兵力増強を計画している。…人民解放軍にかつて所属し、現在は政府が支援する中国軍控与裁軍協会(CACDA)に所属するXu Guangyu氏は「数年後には、兵器の向上と軍隊の一流化を継続できるように一段の兵力削減が必要になるだろう。陸軍は依然として人民解放軍の大部分を占めるとみられるが、海軍と空軍の割合は増えるだろう」と述べた。

中国軍、陸軍の70万人削減と海・空軍の兵力増強を計画 | Reuters

これも近代化・遠方攻撃シフトの一環とみて間違いないでしょう。人海戦術からロシア式に移行すれば、陸軍の人数には余分がでます。それを削減して海空を増強すれば、軍全体としては本土を離れた遠方、例えば台湾周辺、東南シナ海などに展開し、外国に上陸侵攻する能力が高まります。

中国軍の近代化は留まるところを知りませんが、それ自体は経済発展に引きづられた自然なものです。経済が豊かになれば税収が増え、軍隊の予算も増えるのは当然です。ですが問題は中国軍の強化があまりに急速であることと、明らかに外国を攻撃するための能力を追求していることです。


このような中国の動きに対し、日本は何かしているのでしょうか? 日本は財政に余裕がないので、ずっと自衛隊を削減してきています。ですがまったく何もしていない、というわけではありません。次回はその辺りを取り上げてみます。

なお予告していた「非武装」についてのエントリーは次々回の予定です。

*1:戦力投射:パワープロジェクション 能力というべきですが、一般的ではない用語なのでこのエントリーでは”遠方攻撃”に統一します。