リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

日本のインテリジェンス機関

内閣情報調査室のもと室長の著書。
日本の情報(インテリジェンス)活動に興味がある方向け。

目次
インテリジェンスの前庭で
内閣情報調査室の仕事
総理報告
インテリジェンスの手法
日本人の情報観
北朝鮮ミサイルと日の丸衛星
「対外情報庁」構想
インテリジェンスの裏庭で

著者は実務経験者。その目から実際に見た日本の情報活動の内幕が披露されている。

そこで描かれている内情は、貧しいながらも努力している、といったところだ。縦割り組織の弊害、情報への無理解、予算と人員の不足、そして法の未整備といった問題が山積している。

最も分かり易い弊害は、法の未整備だ。このせいで国防、経済、外交らの諸分野で多くの損が生まれている、という。

情報を保全する法律の未整備

日本の法制では口頭で秘密を漏らすことは処罰されない。現在も日本企業のハイテク機密が日本人社員によって、あるいは外国人「研修生」によって会社の許可なく持ち出されている。経済産業省などは国産機密の保護に躍起になっているが、未だ「産業スパイ罪」あるいは「情報窃盗罪」の法制化に至らない
p100

また、行政府が入手した情報の秘密を守る法律も必要だ。

秘密保護法を制定すればよいのである。…日本では秘密保護法がないために「どこまで公表してよいものかという判断ができず、自分や組織の責任を問われないようにするために、あらゆるものを秘密にするという、民主主義体制においてはきわめて憂慮すべき悪癖が生じている」

当然ながら、「秘密保護法」は情報公開法とワンセットで運用される。三十年経過したら全ての国家記録を公開する制度も励行しなくてはいけない。
p158

情報を収集する法律の未整備

国内の怪しげな通信を傍受する(行政的傍受を認める)法律が整備されていない。

例えば数年前、新潟にアルカイダの一味が潜伏していた。その情報はフランスからもたらされたものだったという。海外のアルカイダから度々不審な国際電話が新潟にかかっていたのだが、日本の警察ではそれを傍受できないのだ。

また、北朝鮮の不審船が日本国内の暴力団と交信していた件でも、通信傍受ができないことが仇になったという。不審船の船内から携帯電話がみつかった。その履歴に国内暴力団との通話記録があった。が、今の日本に分かるのはここまでだ。「この暴力団は北朝鮮と交信している」と分かっても、それを直接傍受することができない。

今の日本では、通信傍受は司法的傍受しかできない。裁判所の令状を執行するための傍受だ。だがインテリジェンス活動には令状なしで傍受できる「行政的傍受」が不可欠だと著者は言う。行政的傍受は、例えば外国大使館、ならびにその指示で動いている自国民なども対象になる。

諸外国はこの行政的傍受を法で認め、かつそれが市民への弾圧にならないよう、議会に監督させている、という。

行政府は議会の情報委員会に行政的傍受を実施した件数を報告する。求められれば委員会の秘密会で内容を説明する。関係する議員と公務員は刑事罰で担保された特別の守秘義務を負う。議会が否決した場合は傍受のオペレーションは直ちに中止する。p118

安全対策を講じた上で、情報の保全と収集のための法整備が必要

著者は情報保護法にせよ、行政的傍受の法にせよ、それが権力の濫用にならないよう安全弁をセットにした上で、ちゃんと法律を作れ、と主張している。もっともなことだと思った。