リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

レーザー砲がつげる宇宙戦争の時代

 アメリカが空中レーザー(ABL:Airborne Laser)による弾道ミサイル破壊実験に成功しました。(NYT)うちのブログは時事的なことや兵器の話題は苦手なので余りとりあげないのですが、これはさすがにスルーしかねます。

ABL(空中レーザー)とは何か?

 ABLはミサイル防衛の一部です。弾道ミサイルがどーんと飛び上がる段階を狙います。航空機に搭載したメガワット・レーザーを照射して、ミサイルを無効化します。

 現在すでに実戦配備されているミサイル防衛は、地上または海上からの対空ミサイルです。 在来型のパトリオットイージス艦のSM-3は、弾道ミサイルが飛び上がってから落ちてくるまでの間を狙います。しかしこの段階ではすでにミサイルがかなり加速しているので狙うのが大変だし、おとりの弾頭を放出している可能性があります。その上、とくに終末段階を狙うパトリオットでは、迎撃に成功してもミサイルの破片が落ちてきてしまう、というような問題があります。

 そこで弾道ミサイルが飛び上がる途中を狙うのがABLです。この段階ではまだ弾道ミサイルがあまり加速していませんし、ブースターを切り離していないからマトが大きいし、弾頭を放出する前なので、おとりにダマされる心配がありません。その上、破壊した弾道ミサイルの破片は、それを撃った敵国の領土に降り注ぎます。

 このABLが加わることで、ミサイル防衛システムはさらに堅牢なものとなります。ミサイル防衛構想のもととなったSDI(戦略防衛構想)が発表されたとき、これを揶揄して「スターウォーズ計画だ」と批判されました。「レーザー衛星で核ミサイルを撃ち落すんだ」というアイデアがあまりにSFじみており、非現実的な空想に思えたからです。

 しかしABLというレーザー兵器が実用化の目処が立ちつつある現在、絵空事のように思えた「スターウォーズ計画」が現実のものになりつつあります。

ミサイル防衛以外の用途

 ABLはとりあえずミサイル防衛用に開発されているのですが、他の用途に発展することも考えられます。具体的には巡航ミサイルや敵戦闘機の迎撃、そして人口衛星の破壊です。

 ABLが発展すれば、対弾道ミサイルに限らない空対空兵器として運用されることも考えられます。数百キロの射程距離を持ち、光速で目標を射撃できるレーザー砲は、巡航ミサイルや敵の戦闘機を撃ち落すこともできるようになるだろうと考えられるからです。敵の戦闘機からすれば、ミサイルの射程外から撃たれることとなります。しかも光速のレーザーで撃たれるのでは回避が困難です。

 といっても、現在のABLは目標を破壊するほどの出力は持っていないので、これはしばし先の話です。いまのABLは弾道ミサイルの燃料を急激に温め、ミサイルの強度を低下させます。上昇中のミサイルはたいへんな圧力と熱がかかっているのですが、強度が低下することでそれに耐えられなくなり、ドカン、となります。出力がさらに増し、より短時間の照射で破壊・溶断できるようになれば、他の空中目標を迎撃することも視野に入ってくるでしょう。

米空軍では……レーザー砲の更なる射程の延伸と出力の向上を目指したならば、対戦闘機のアウトレンジ空対空戦闘を行なえるAL−1Bを就役させるとしている。

米空軍 空中レーザー・ミサイル迎撃機 AL−1A

 より近い話として現実味があるのが、人工衛星の破壊です。ABLは衛星迎撃兵器(ASAT)として運用できるといわれています。低軌道を飛ぶ人工衛星、具体的には敵国の偵察衛星や通信衛星を狙い撃ちできると考えられます。

 衛星軌道が戦場となる時代はすでに到来しつつあります。2007年に中国がミサイルによる衛星破壊実験を成功させて話題になりました。また2008年にはアメリカが、落下してくる衛星をSM−3で破壊したことがありました。ABLが実戦配備されれば有力な衛星迎撃兵器(ASAT)として敵国の耳目をふさぐ運用も期待されるでしょう。

参考:ASAT

 「スターウォーズ計画」と冷笑された構想が実現しつつある現代は、衛星軌道上に限ってのこととはいえ、より実際的な意味でも「宇宙戦争」の時代になっていくのかもしれません。